失った歯が、もう一度育つ。好きな食べ物を、自分の歯でかめるようになる。そんな未来につながる薬を、日本の研究者たちがつくろうとしている。
会社の名前は、トレジェムバイオファーマ。京都大学で生まれた研究をもとに、歯の再生治療薬を開発するスタートアップだ。まず目指しているのは、生まれつき永久歯が足りない人の治療。誰でも失った歯を取り戻せる薬が、すでに完成したという話ではない。[1][2]
まず、90秒で見る
映像はAI生成の説明用イメージです。実際の研究者・施設・患者さんの治療結果を記録したものではありません。歯や分子の図は簡略化した模式図です。
01 / THE PEOPLE
研究室の発見を、患者に届く薬へ
挑戦の土台には、歯科医師で研究者の髙橋克らによる歯の再生研究がある。会社の歩みによると、2007年に通常より多くの歯を持つモデルマウスと出会ったことが、研究を進めるきっかけになった。歯の本数を決める仕組みを解き明かすことが、新しい治療につながるかもしれない。[1]
2020年5月、トレジェムバイオファーマが設立された。研究成果を論文の先へ進め、治療薬として患者に届けるためだ。薬にするには、製造や品質の管理、人での試験など、研究室とは違う課題にも取り組む必要がある。[1]
02 / HOW IT WORKS
歯の成長にかかる、ブレーキを抑える
歯は、歯胚(しはい)と呼ばれる「歯の芽」から育つ。その成長に関わる仕組みの一つが、USAG-1というタンパク質だ。歯の発生を抑える働きがあり、ここでは成長の「ブレーキ」と考えると分かりやすい。[2]
トレジェムは、この働きを抑える抗USAG-1抗体を使い、歯の成長を促す治療を目指している。壊れた歯を材料で埋める治療とは異なる、自分の組織から歯を育てる構想だ。[2]
目指す治療の仕組み
- 01成長を抑えるUSAG-1が関わる
- 02抗体で抑えるブレーキの働きに作用
- 03歯を育てる歯胚の成長を促す
2021年に京都大学が発表した研究では、先天性無歯症のモデルマウスへの抗体投与で歯の形成が回復し、通常のマウスでも新しい歯の形成が確認された。成果は学術誌Science Advancesに掲載されている。これは動物で得られた成果で、人で同じ効果が確立したことを示すものではない。[3]
03 / WHO IT IS FOR
最初に届けたいのは、永久歯が足りない人
最初の開発対象は、先天性無歯症。生まれつき永久歯の一部、あるいは全部が欠けている状態を指す。トレジェムは、成長しなかった歯の芽を育てる治療を目指している。[2]
その先には、虫歯や事故などで後から歯を失った人への応用も構想している。ただし、こちらは将来の研究目標だ。先天性の欠損への開発と、成人が失った歯を再生する治療は、別の段階として見ておきたい。[2]
04 / WHERE IT IS NOW
臨床開発へ。まだ、誰でも使える薬ではない
開発中の抗体医薬品の名前はTRG035。会社は2024年10月に第Ⅰ相試験を開始したと公表している。人での開発が進む段階へ入った。[1]
さらに2026年8月17日、先天性無歯症を対象とする第Ⅱa相試験の治験計画届について、PMDAの所定の調査が完了したと発表した。同じ発表では、医療機関の治験審査委員会による審査などを経て、参加者の組み入れと投与を開始する予定としている。[4]
今回確認した公式発表からは、誰でも使える薬としての承認・販売は確認できない。「歯が生える薬が完成した」と受け取るには、まだ早い。
05 / THE QUESTIONS
歯が育つ、その先にも問いがある
日常で使える治療を考えると、確認したいことが見えてくる。人で安全に使えるか。どの患者に効果があるか。育つ歯の本数や位置、形をどう評価するか。そして、かみ合わせや長期的な経過はどうなるのか。
これらは本記事が実用化を考えるうえで挙げた問いで、治験の評価項目をそのまま列挙したものではない。動物での発見を、人の暮らしに役立つ治療へ進めるには、こうした経験と検証を積み重ねる必要がある。
06 / WHAT COMES NEXT
もう一度、自分の歯でかめたら
好きな食べ物を選ぶ。家族と同じ食卓を囲む。自分の歯でかめることは、そんな日々の楽しみにもつながる。
トレジェムが挑むのは、歯の再生という研究を、患者が選べる治療にすることだ。その道のりは続いている。「歯は、もう生えない」という常識が変わる未来を、あなたは想像できるだろうか。
出典・参考資料
- トレジェム|設立、研究者と開発の歩み
- トレジェム|歯胚、USAG-1と治療アプローチ
- 京都大学|抗USAG-1抗体を用いた歯再生研究の発表(2021年2月15日)
- トレジェム|TRG035第Ⅱa相試験の治験計画届に関するPMDA調査完了(2026年8月17日)
情報確認日:2026年10月7日。研究成果・開発状況は大学と会社の公表情報に基づきます。人での治療効果を本記事が独立して検証したものではありません。画像と動画はAI生成の説明用イメージです。